吉田未加が『Emoria』を全曲解説!

10月8日(水)に1stアルバム『Emoria』をリリースし、11月14日(金)に下北沢SPREADでmiidaを迎えたレコ発ライブを控える吉田未加バンド。今回はメンバー全員(吉田未加、Romantic、梅津拓也、星野未緒、小林弘昂)に『Emoria』の制作に関するメール・インタビューを実施しました。まずは吉田未加の回答を公開!


小林弘昂の回答はこちら!

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星野未緒の回答はこちら!

梅津拓也の回答はこちら!

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私の挑戦がより繊細に、
より鮮やかな形になりました。

◎『Emoria』はどんなアルバムになりましたか?

吉田 ありきたりな表現ですが、自分にとって“挑戦”の作品になりました。

昨年から年代やジャンルを問わず様々な音楽を聴くようになったのですが、そこから音楽の歴史や進化に感銘を受けて楽曲制作に臨んだり、ボーカルの表現の向上を目指したり、自分にとって様々な挑戦をしたつもりです。

今回レコーディングに参加した4人のバンド・メンバーに各々の個性や生き方が感じられるようなアレンジ/演奏をしていただいたおかげで、私の挑戦がより繊細に、より鮮やかな形になったと思います。

◎アルバムのリリース後、まわりからはどんなリアクションがありましたか?

吉田 後述しますが、「Inside of You」や「すればよかった」のようなR&Bの要素を取り入れたコード進行や、日常的に聴けることを意識した音作りは自分にとっても新たな試みだったので、“毎日聴ける”、“以前の作品よりも聴きやすくなった”など、ポジティブな反応をもらえた時は嬉しかったです。

“シングル版の「風」と「香」と今回の再録版を比較すると、再録版は新曲のように聴こえた”との感想もいただきました。この1年間でボーカルの表現力が少しは向上したのかなと思います。

一方で、“内向的なアレンジをもっと外に向けたらどうだ?”という意見もありました。確かに、ほかのアーティストの楽曲を聴いてから自分の楽曲を聴いてみると、もっとわくわくするようなアレンジにも取り組んでみたいという気持ちがあります。

◎「Baby Step」はどのように制作を進めましたか?

吉田 『Emoria』の中で一番最後にできた曲です。この曲を作る前に、“簡単な構成で耳に残る音楽を作りたい”という意欲が湧いてきたこともあり、最も力を抜いて背伸びせずに制作できました。

というのも、「Inside of You」や「Chameleon」のコード進行が複雑かつクセありで、バンド・メンバーが“面白いけど難しい……”と頭を悩ませている部分もあったため、“とにかくコード数が少なく演奏しやすいこと”、“ノリが良く気軽に聴けるけどメロディは耳に残ること”を意識しました。

グルーヴ感とボーカルの軽やかさは、大貫妙子さんの「都会」をイメージしました。コードやメロディのアレンジ変更はほとんどなく、ほぼ自分が作ったデモ音源のまま安田君のアレンジが加わり、この形になりました。

アルバムの中で最初にレコーディングしたのはこの曲なのですが、歌録り中に梅津さんから“ボーカルの表現力がすごい。鳥肌が立った”、安田君から“宇多田ヒカルさんを感じる”と言ってもらい、嬉しかったのを覚えています。

歌詞で表現したかった描写は、“都会の通勤風景”、“せわしない日常”です。自分も含めてですが、それらに適応しようと日々頑張っている人が多い現代社会で、“ふと立ち止まって自分を見つめる時間を持つことの大切さ”、“マイペースにゆっくりでいいんだよ”というメッセージを込めました。

マイクはツバメスタジオのSennheiser MD416N(カーディオイド・マイク)を使用しています。

◎「すればよかった」はどのように制作を進めましたか?

吉田 実は、“明るくて重くなくて短い楽曲”をアルバムに入れようと思い、自分が制作していたデモ曲がありました。しかし、完成に向けて安田君とコードやメロディ、歌詞をこねくり回したものの、レコーディングまでに間に合わず……。それを補う形で安田君が制作してくれた楽曲が「すればよかった」になります。

メロディに乗りながらグルーヴィなサウンドの一部としてボーカルを機能させることが『Emoria』の中で最も難しい曲だと感じました……。Marvin Gayeの「What’s Going On」を参考にするなど、とにかくノリを意識しつつ、歌の温度感を一定に保ちながら世界観を表現することに注力してレコーディングに臨みました。

その結果、グルーヴィなサウンドと温度感が低めのボーカルが融合したシティ・ポップ風の楽曲になりました。個人的にはギター・ソロがとても好きで、ドライブ中にノリノリで聴きたくなるような疾走感を感じます。

吉田未加の楽曲の中に、ようやく明るくてカラッとした空気の音楽が仲間入りしたと嬉しく思っていますが、次作以降では自分の作詞・作曲でも明るく聴きやすい楽曲に挑戦したいと思っています。

この楽曲のマイクもSennheiser MD416Nを使用しています。

◎「すればよかった」のMVの感想を教えてください。

吉田 “楽曲の世界観に沿うストーリーで、なおかつ最後まで見てもらえる映像を”と監督の満粋さんにご相談し、8月末の猛暑日の中、監督を始めとする大勢のスタッフさん、そして2人の俳優さんが丸1日かけて撮影してくださいました。

シナリオ、映像の光加減、俳優さんたちの表情もとても素敵で、最後まで見入ってしまう作品に仕上げてくださったと思います。感謝の気持ちでいっぱいです。

先日、スタッフさんや俳優さんたちとMVの完成打ち上げを行ったのですが、みなさん“「すればよかった」に関われて本当によかった”と言ってくださり、感無量でした。

そしてみなさん若い! 20代のパワーや感性に触れられて、それだけでもこの楽曲のMV制作をお願いしてよかったと思いました。表現活動や芸術分野に携わる者同士、自分も含めて、みなさんの今後の活躍を願わんばかりです。

◎「Inside of You」はどのように制作を進めましたか?

吉田 自分が目標にしているアーティストの1人に宇多田ヒカルさんがいます。宇多田さんの「For You」という楽曲が大好きで、とにかくメロディの運びが切なげに聴こえてくるんです。「Inside of You」は「For You」の世界観をイメージしながら制作しました。

また、「Inside of You」は『Emoria』の中で一番最初に取り掛かったのですが、制作中に柴田聡子さんの「Passing」という楽曲がリリースされました。“「Passing」のようなソフト・ソウルの雰囲気が自分の中にもあったら斬新だろうなぁ”と思い、イメージを膨らませていきました。

そんな感じで、「Inside of You」は今までの自分にはない新しい方向性を意識しましたが、その分、アレンジを行う安田君にとっては方向性をまとめる作業が大変だったのでしょう……この曲のデモが完成するまでに約1ヶ月を要しました。

コードとメロディを安田君と相談しながら変化させていく中で、結果的にオーギュメント(Aaug)、マイナー・メジャー7th(Em△7)などが登場し、他のメンバーを困惑させる難曲になってしまいましたが、自分としては時間をかけて取り組んだ新しい挑戦の楽曲で、思い出深いものになっています。

バンド・サウンドに関しては、全員同じノリで演奏している間奏と2番Aメロのグルーヴ感が気に入っています。

歌詞で表現したかった描写は、“自分ではどうすることもできない問題や環境に立ち向かいながらも今を生きる人々”です。“そうした困難な状況の中でも本当に望むものは必ずあなたの中にあるから、それを大切にしてほしい”というメッセージを込めています。

歌唱で意識したのは、やはりグルーヴィなノリと、歌い上げずに温度感を一定にすることでした。しかし、レコーディングの時点ではまだ完全には掴みきれず、“これで大丈夫なんだろうか?”と不安だったのですが、安田君の“ボーカルの表現、見えたっしょ!”という発言を信じて今の形になりました。

マイクはSennheiser MD441-U(ダイナミック・マイク)を使用しています。

◎「香(Album Version)」はどのように制作を進めましたか?

吉田 この1年間のライブで「香」を演奏することが多く、メンバーが各自の役割を掴めた状態で今回の再録に臨めたのではないかと思います。

自分としては、シングル版の「香」ではフワフワした歌唱になってしまったところが否めないのですが、今回は温度感低めに、情景が目に浮かぶような表現を意識しながら歌いました。

安田君から“今回のアルバムの中でボーカルは「香」がダントツに上手い”と言ってもらい、確かに前回よりもバンド・サウンドに溶け込んだ歌い方ができたかなと思います。

この楽曲のマイクもSennheiser MD416Nを使用しています。

ソウルの発祥と歴史に感銘を受け、
挑戦意欲が湧いて制作した楽曲です。

◎「Speed」はどのように制作を進めましたか?

吉田 バンド・セットで活動し始めた頃からライブで演奏していた、安田君が作詞・作曲・アレンジを担当した楽曲です。

この楽曲は、“Aメロ→Bメロ→間奏→ギター・ソロ→Cメロ”と構成が進んでいくにつれて演奏が大きく変化し、それが聴きどころだと思うのですが、安田君としては“構成の変化はあってもグルーヴ感は常に一定で、安定した演奏がマスト”とのことでした。

確かに、リズム隊だけのレコーディング音源を何テイクか聴くと、ベースとドラムの跳ね感に違いがあるテイクと、2人が同じノリで演奏できているテイクとでは明らかな違いがありましたし、跳ね感が同じテイクのほうが歌いやすさを感じました。

実は「Speed」はレコーディング2日目にすべての楽器の録音が完了していたのですが、“もっと良いリズムで演奏ができるはずだ”と、それを破棄し、3日目にイチから録り直したものが収録音源となっています。

そのおかげでアルバム全体のギターとボーカルのレコーディング時間が大幅に削られましたが……それも制作の醍醐味といいますか、なるようにしかならない部分もあると感じたので、自分にとっては意味があったかなと思います。

ボーカルに関しては、安田君から“矢沢永吉さんみたいに「すべてをわかっている感じ」を出してほしい”というリクエストがあり、それを意識して歌っています。

マイクは楽曲の温度感に合わせるため、東芝 G型 ベロシティマイクを使用しました。

ドラマチックな構成、グルーヴィな演奏、間奏とアウトロのギター・ソロがとても気に入っています。この曲だけ安田君のバック・コーラスが入っているのも面白いですね。

◎「Chameleon」はどのように制作を進めましたか?

吉田 昨年、シングルの「風」をリリースしたあとから、おもにアメリカ/イギリスのポピュラー・ミュージックの変遷について勉強をし始めました。その中でソウルの発祥と歴史に感銘を受け、挑戦意欲が湧いて制作した楽曲です。

“グルーヴィで耳に残るメロディと日本語詞だけど、よく聴くとアメリカン・ソウル”というコンセプトを設け、キリンジの「Drifters」をイメージしました。

安田君とコードやメロディを相談した結果、バンド・サウンドもソウルを意識したアレンジになりましたが、レコーディングではギター・ソロに対する安田君の注文がとにかく難しくて、小林君がかなり苦戦を強いられていたのを覚えています。何度も挑戦してくれてありがたい限りです。

リズム隊の2人は個性を出しつつ、「Speed」と同じくグルーヴィなノリを意識して跳ね感を出してくれました。

歌詞で表現したかった描写は、“役割を与えられた人々の生き様”です。人はみな何かしらの役割(家族・社会など)があって、その中でしか見られない景色もありますが、葛藤や辛さを感じることもあるかと思います。そんな今を生きる人々への賞賛の想いを込めて歌詞を書きました。

マイクはSennheiser MD416Nを使用しています。

◎「風(Album Version)」はどのように制作を進めましたか?

吉田 「風」もライブでの演奏回数が多く、メンバーそれぞれの演奏はもちろん、ボーカルの表現も大きく変化していった楽曲だと思います。レコーディングでも、前回からさらに情感度の上がった表現を目指しました。

ライブでは間奏の尺を2倍にして演奏しており、今回はライブ・バーションで収録しました。やはり間奏のBig Muffをかけたギターの歪みが大好きです。

アウトロのベースのフレーズは、風の流れを表現してくれているように感じて、リハーサルでもライブでも身をゆだねています。

この曲の歌詞のモデルには、はっきりとした2人の存在があります。演奏を重ねるごとに、“その2人をいつまでも優しい風が包みますよう”にという願いを込めた描写を、鮮やかに表現することができているのではないかと感じています(バンド・メンバーはその2人のことを知らないのですが、みんなもそうなっていると思います)。その変化を感じ取っていただけたら、とても嬉しいです。

◎「部屋の灯り」はどのように制作を進めましたか?

吉田 自分にとっては「Inside of You」が挑戦的な試みだったため、“等身大の楽曲があってもいいかもしれない”と思い制作した楽曲です。

落ち着いたテンポ、耳に残るメロディ、時間は短め、コード数を少なく、そして“ソウルへの敬意”を意識しながら、Norah Jonesの「One Flight Down」やBruno Marsの「When I Was Your Man」を聴いてイメージを膨らませました。

ほぼ自分が作ったデモのまま安田君のアレンジが加わり、この形になりました。この楽曲のバンド・アレンジをどうするか考える中で、小林君から「未加さん名義のアルバムなんだし、1曲は弾き語りがあってもいいと思う。この曲はどうですか?」と意見をもらい、結果的に鍵盤と歌のみで収録することにしました。

「Speed」をイチから録り直し、レコーディングの時間が大幅に削られた関係で、この曲は安田君の鍵盤と自分のボーカルを同時に一発録りしています。しかも2テイクしか録れず、その2テイク目が収録されています。

時間がなく、どのように録るかを直前にご相談したにも関わらず、レコーディング・エンジニアの君島さんには機材セッティングなど即座に対応して下さり、本当に頭が下がる思いです……。

この曲も温度感を意識してマイクは東芝 G型 ベロシティマイクを使用しています。

一発録りならではのズレやライブ感を味わっていただけたら幸いです。

◎最後に11月14日(金)下北沢SPREADでのレコ発ライブに向けて意気込みをお願いします。

吉田 昨年から活動を開始し、楽曲制作、歌唱表現の向上はもちろん、未経験のことも含めてたくさんの挑戦をしてきました。逆に言うと挑戦し続けることしかできないですが、1stアルバムの制作/リリースに取り組んだ姿を見ていただきたいです。

ゲストのmiidaは大先輩で、先日の新代田FEVERでのワンマン・ライブを拝見しましたが、本当に素敵でした。それぞれのカラーの違いも楽しんでいただける夜になると思います!

“観に来てよかった”と思っていただけるライブにします。よろしくお願いいたします!

吉田未加
1st Album『Emoria』Release Live

<日程>
2025年11月14日(金)
下北沢SPREAD
Open:19:00 / Start:19:30

<出演>
吉田未加(Band Set)
miida

<チケット>
前売 ¥3,500/当日 ¥4,000(+1D)
※23歳以下は¥2,500(当日会場にて年齢証明ができるものをご提示ください)
※前売は会場もしくはアーティスト予約のみ