10月8日(水)に1stアルバム『Emoria』をリリースし、11月14日(金)に下北沢SPREADでmiidaを迎えたレコ発ライブを控える吉田未加バンド。今回はメンバー全員(吉田未加、Romantic、梅津拓也、星野未緒、小林弘昂)に『Emoria』の制作に関するメール・インタビューを実施しました。2人目はギタリストの小林弘昂の回答を公開!
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ズレやヨレも
楽しんでいただけたらと思います。
◎『Emoria』はどんなアルバムになりましたか?
小林 個人的に人生で初めてレコーディングに参加させていただいたアルバムです。今でもちゃんとできていたか不安のほうが大きいのですが、制作時間が十分に確保できない中でのアレンジやレコーディングはチャレンジングな取り組みでした。
今回はメンバー全員で“せーの”で録音したため演奏が荒い部分があったり、ギターはスタジオのブースの都合上アンプを鳴らせずラインで録音したので(最終的にMarshallの1987でリアンプしています)音作りを詰められていなかったりと、正直すべてに満足しているとは言えません。ですがレコーディングとはその時の記録ですので、そのズレやヨレも楽しんでいただけたらと思います。
アルバムのコンセプトやトータルのエピソードは他のメンバーに譲るとして、ここではギターに焦点を当てたお話をさせていただきます。
◎アルバムのリリース後、まわりからはどんなリアクションがありましたか?
小林 意外にも「Inside of You」の細かいギター・フレーズや、「Speed」の長尺のギター・ソロを褒められることが多いです。
また、“「風」のような歪んだ楽曲をメインにすればギター・ロックが好きな若者にも届くのでは?”、“内向的なアレンジをもっと外に向けたらどうだ?”という意見もありました。それに関しては自分も同意する部分があり、『Emoria』の反響を様子見しながら次作以降の方向性を考えていきます。
◎「Baby Step」はどのように制作を進めましたか?
小林 アレンジは、未加さん(もしくは安田君)が作った楽曲のコードをもとに、まずはリズム隊のアプローチから固めていくので、ギターのフレーズ/サウンドメイクは一番最後の作業になります。リズム隊のアレンジ中に安田君が“ギターでこれを弾いて”とピアノでフレーズを指定してくることもあり、「Baby Step」の屋台骨となっている単音フレーズは安田君が作ったものです。
1曲を通してギターは同じフレーズを弾き続ける耐久レースのような感じなので、2番のオブリで動きを出すためにR&Bっぽいフレーズを入れてみました。
音作りに関して特にモチーフがあったわけではありませんが、なんとなく全体的にFishmansの「いかれたBaby」っぽい雰囲気だなと思っています。
◎「すればよかった」はどのように制作を進めましたか?
小林 昨年、自分がこのバンドに参加することになった際、“もっと明るくて重くなくて短い曲が欲しい”とリクエストしており、ようやくそういう楽曲ができました。
サビのギターは最初、松任谷(荒井)由実さんの「中央フリーウェイ」での松原正樹さんのような半音スライドやテンション・ノートを加えた疾走感のあるカッティング・フレーズを入れていたのですが、安田君から“もっと音を減らして!”と言われたため、なんとも奥ゆかしいバッキングになっています。
Aメロのミュート・フレーズは安田君からの指定で、これが意外と難しいです。そういえばサビ前の単音フレーズも、ラストの大サビ前のオクターブ・フレーズも安田君の指定ですね。うーむ……。
ギター・ソロはコード・トーンを追っていく中で見つけたフレーズを軸にして、メロディアスさを意識して組み立てていきました。レコーディング当日まで安田君から“ソロはギターで弾くか、鍵盤で弾くかはわからないから!”と言われており、“せっかく考えたフレーズがボツになるのは嫌だな〜”と憂鬱でしたが、レコーディングした1発目のテイクを聴いたメンバーから“海が見えた!”と謎のOKをいただき、めでたくそのままギター・ソロが採用になりました。その時初めて“これって海の曲なんだ……”と思いました。
ラインで録ったバリバリの音だったのですが、それが安田君的に“サニーデイ・サービスの「スロウライダー」みたいでかっこいい!”となったみたいです。最終的にリアンプした音が使われているのか、ラインのままの音が使われているのか、その2つを混ぜているのかはわかりません。
ちなみにソロの最初の2小節のフレーズはHAIMの「The Steps」から拝借しています。「すればよかった」のアレンジをしている時は「Relationships」がリリースされたあとで、(勝手に)大好きなHAIMへのオマージュとさせていただきました。
ワウ・ギターは自分ではなく安田君がミックス段階で弾いたものです。
◎「すればよかった」のMVの感想を教えてください。
小林 監督の満粋さんを始めとするスタッフさん、そして2人の俳優さんが力を合わせて作り上げたみずみずしい映像のおかげで「すればよかった」が若返りました。
◎「Inside of You」はどのように制作を進めましたか?
小林 この曲にはギターで押さえにくい分数コード、オーギュメント、マイナー・メジャー7th(Em△7)などが使われており、“なんて難しい曲がきたんだ……”と頭を抱えました。
ギターは控えめに、各楽器やボーカル・メロディの間を縫うイメージで弾いています。というか、すべての楽曲が鍵盤中心にアレンジされているので、ギターのフレーズとサウンドは常に隙間にしか存在が許されていないのです。出る杭は打たれることになっています。
サビ前の細かいフレーズは安田君から“何か入れて!”と言われ、何パターンか試すも、“もっとジャズっぽく!”や“ペンタトニック使わないで!”と、とんでもなく難しいことを言われ、自分では何が正解かわからなくなり、“これで勘弁してください”としてもらいました。
アウトロはアレンジの段階ではギターのアドリブ・ソロ的なものを弾いていたのですが、レコーディング中に安田君から“鍵盤と被らないように弾いてもらえる?”と言われ(アレンジ時よりも鍵盤のフレーズが増えていました)、トライはしましたが、“急に言われてもそんな高度なアドリブできないっす……”とお手上げし、ギター・ソロは幻となりました。
サビなどで左chから弾こえてくるギターは自分ではなく、安田君がミックス段階で弾いたものです。
◎「香(Album Version)」はどのように制作を進めましたか?
小林 アルバムの収録にあたり再録しました。以前、安田君を除いた4人編成でライブに出演することがあり、鍵盤がいない隙間をギターで埋めようと考えたアレンジがあったのですが、そのフレーズを採用しています。なので昨年リリースしたシングル版よりも若干ギターの割合が増えています。
この曲は今回のレコーディングでなかなか納得のいくドラム・テイクが録れず、何度も“せーの”で録り直したこともあり、最後のほうは両手の力がなくなっていきました。そのためピッキングが荒いのですが、これはこれでアリかなと思っています。
本当はフレーズによってもっと歪みを足したかったのですが、安田君から“ミックスの時にノイズが目立つから”とNGを出されまして、1曲を通してフラットな歪み量になっています。
ノンストップで20回以上弾きまして、
使用箇所は安田君に選んでもらいました。
◎「Speed」はどのように制作を進めましたか?
小林 「Speed」は昨年5月に開催した初ワンマン・ライブですでに演奏していた曲です。本当は未来永劫レコーディングせずライブ限定にする予定だったのですが、曲数が足りなかったので収録することになりました。
Aメロ終わりの短い間奏はアドリブで弾いたもの、Bメロのアルペジオ・フレーズは安田君の指定です。
もともと“この曲だけはギターを前面に出そう”ということで、長尺のソロが用意されていました。しかし安田君からのリクエストは、“アドリブで、チョーキングなるべく禁止、ロックじゃなくジャズっぽく、アウト・フレーズも入れて、Nels Clineっぽく弾いて”でした。
そんなことができていたらとっくにWilcoに加入していますし、Blue NoteやCOTTON CLUBでライブもしています。
ジャズっぽさを出すためにオルタード・フレーズを弾いていたのですが、レコーディング中、安田君から“それ飽きるから入れないで”と言われ絶望しました。悩んで悩んで、お恥ずかしながらアドリブのイップス的なものになってしまい、“良いところだけを切り貼りしてくださいませ”とお願いし、何パターンかアドリブ・ソロを録音して使用箇所は安田君におまかせしました。
最初のソロの後半(チョーキングが入ってくるところ)と、最後のソロの前半(トレモロ・ピッキングのところ)だけは事前にフレーズを決めていました。以前のライブで「Speed」を演奏した時、アドリブで出てきたフレーズをそのまま自分でコピーしています。
最後の最後、ピロピロしているソロはヤケクソになって弾いたものです。安田君が“なんかデロデロしてて良いじゃん!”と言って採用になりました。よくわかりません。
個人的には、最初のソロ終わりの歪んだ音でのコード・ストロークと、そのあとのビブラートをかけたアルペジオが気に入っています。なぜならディストーションで歪ませているからです。歪み最高!
アコギは自分ではなく安田君がミックス段階で弾いたものです。
◎「Chameleon」はどのように制作を進めましたか?
小林 この曲も昨年末に開催した「風」のレコ発ライブから演奏していました。クラシックなソウルを目指しているとのことで、Marvin Gaye、Stevie Wonderといった70年代の音楽で聴けるギター・カッティングやDavid T. Walkerのようなアプローチを意識したつもりです。
トレモロをかけた単音フレーズは安田君の指定で、“ミスチルっぽい感じで!”とのことでした。自分はMr.Childrenをあんまり聴いてこなかったので、これでよかったのかはわかりません。
そしてアウトロにまたまた長尺のギター・ソロがあるのですが、自分は“ここは鍵盤だけでよくて、ギターのソロはいらないんじゃないですか?”と反対していたんです。その訴え虚しく、とっても難しいコード進行でアドリブを弾くことになりました。もちろん安田君からは“ペンタトニックなるべく禁止、チョーキング禁止、ジャズっぽく、なんならスケールっぽく無機質なフレーズで”というオーダーを出され大混乱です。
レコーディング直前のアレンジの時はかなり無機質でスケール・ライクなアドリブを弾いていたのですが、レコーディング中に安田君から“それだと飽きるから、もっと単音を伸ばしたり、ハンマリングとプリングを繰り返したり、同じフレーズを入れてみたり、あえて弾かない箇所を作ってみたり……”と、一度にとんでもない数の要望を言われて頭が真っ白になりました。それを横で聞いていた未加さんとレコーディング・エンジニア君島さんの“え、今それ言う?”みたいなリアクションが忘れられません。
なのでこのソロもノンストップで20回以上弾きまして、使用箇所は安田君に選んでもらいました。自分の実力不足を呪うとともに、“ジャズ・ギタリスト以外で誰が弾けんねん?”とも思いました。(^_^;)アセ
アコギは自分ではなく安田君がミックス段階で弾いたものです。
◎「風(Album Version)」はどのように制作を進めましたか?
小林 この曲も再録ということで、シングル版とはちょっと違った感じにしようと思い、ギターをLes Paul Customに変更してみました(シングル版はCustom Telecaster)。そのため少し重たい空気感になっていると思います。
間奏のファズの部分はシングル版よりもミックスで音量が抑えられています。個人的にはもっとフィードバックが入ってきてほしかったのですが、ハムバッカー搭載のLes Paul Customだと難しく、ドゥームのような質感が強くなっています。それと個人的にはレコーディング期間中に亡くなったOzzy Osbourneへの追悼の気持ちも込めました。Black Sabbathの「War Pigs」のように聴こえてほしいです。
本当はアウトロにギターのアルペジオを入れたかったのですが、昨年のシングル版のレコーディングの時に安田君から、“ここは先に梅津さんがベースでメロディ弾いちゃったからギターはナシで。年功序列だから!”と言われてしまいました。うーん……とモヤりましたが、今回のアウトロはベースと鍵盤が上手く組み合っていて、とても良いと思います。
◎「部屋の灯り」を聴いた感想を教えてください。
小林 もともとこのバンドは未加さんと安田君の2人で始まったプロジェクトなので、良い形で締めくくれたのではないでしょうか。不安でいっぱいな2025年の夏をパッケージした歌詞も良いと思います。
◎最後に11月14日(金)下北沢SPREADでのレコ発ライブに向けて意気込みをお願いします。
小林 レコーディング時よりもアップデートしたサウンドが出せるようにがんばります。miidaとの共演も楽しみで、マスダミズキさんがJazzmasterを使っているので自分も当日はJazzmasterを弾くか、それとも普通に最近気に入っているSG Standardにするか悩んでいます。よろしくお願いします。
吉田未加
1st Album『Emoria』Release Live

<日程>
2025年11月14日(金)
下北沢SPREAD
Open:19:00 / Start:19:30
<出演>
吉田未加(Band Set)
miida
<チケット>
前売 ¥3,500/当日 ¥4,000(+1D)
※23歳以下は¥2,500(当日会場にて年齢証明ができるものをご提示ください)
※前売は会場もしくはアーティスト予約のみ